16.滑走路(8)

 話は前後する。
 修学旅行先の京都のレコード店で中尾 丈は、ベンチャーズの1970年の実況録音盤である「LIVE! THE VENTURES」を衝動買いしたのであったが、東京に戻った翌日には、さっそくオープン・リールのテープに録音して、秀に渡してくれた。
「ジェリー・マギーがオープニングから、いきなり間違えちゃってるよー。」
 などという前振りを聞いて帰宅し、さっそくテープレコーダーで再生した。丈はレコード本体も貸してくれたので、ジャケットの写真や見開きの写真、曲目表を眺めながら、スピーカーから出る音に耳を傾ける。

 丈の言った通り、1曲目の「京都の恋」で、ジェリーが倍音が強く出てしまったようなミス・トーンを出していて、ニヤリとさせる。
 しかし、アルバムを通して聞いてみると、若干オフ・マイク気味に録音された荒削りな音質が、かえって迫力をかもしだしていて、なかなか悪くない印象を受けた。
「オン・ステージ’71」にも何曲か同じ曲が収録されているが、それと比べると、いくらかテンポが落ち着いていて、ヘヴィーなサウンドだ。’60年代からの「おなじみのナンバー」は、ほとんど入っておらず、ストーンズやボブ・ディラン、CCR等の曲を演奏しているのが、新鮮と言えば新鮮だ。
 もはや、夏やサーフィンのイメージではなく、より「ロック」に近いインストのサウンドがそこにあった。

 圧巻はラストの「ハワイ・ファイヴ・オー」である。
 イントロのメル・テイラーの迫力がもの凄い。スタジオ盤のティンパニーに負けないタムタムの響きは、とても普通のドラム・セットのものとは思えない。ジェリーのリード・ギターとジョン・ダリルのオルガンのからみもいい感じで、この時期の5人のユニットでの演奏では、ベストの部類に入るテイクであろう。
 秀は、葉山次郎が加わった新しいT.A.D.では、必ずこの「ハワイ・ファイヴ・オー」をやりたいと思った。

 そんな日々を送っているうちに、期末試験を経て冬休みが近づいて来た。
 冬休み前の軽音コンサートで、出演バンドに空きがあったので、秀は砂田隆彦と最後のステージに立とうと思った。砂田も了解し、丈と浩二にも話をつけ、出演が決まった。
 とりたてて新しいレパートリーもなく、秀自身の中で弾き方が多少変わった程度の、実に淡々とした心境の中での演奏であった。
 ギターはグレコのレスポールを使った。客席の後方には、腕を組んでじっと様子をうかがう葉山次郎の姿があった。
 秀は次郎の目を意識して「ウォーク・ドント・ラン」や「ダイアモンド・ヘッド」をジェリー・マギー・スタイルで弾いた。それを見て、次郎はニヤリと笑う。

 演奏終了後、秀は砂田のところへ行き、
「長いこと付き合ってもらっちゃって、ありがとう。」
と挨拶した。砂田はベースをソフト・ケースにしまいながら振り向くと、
「ああ。暇があったら、また遊んでよ。」
と笑った。
 こうして、T.A.D.のベーシストは正式に砂田隆彦から、二代目の葉山次郎にバトン・タッチされたのであった。


             


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