12.滑走路(4)

 修学旅行の2日目、鳥取砂丘を後にした山陰組一行は、観光バスに揺られて、京都をめざした。
 仲のよい友達同志でも、趣向の違いから山陰組と四国組に分かれている者たちも多かった。
 秀と丈、浩二と次郎もその口だ。
 京都府内見学は、それぞれのクラスの中での班行動なので、この四人で行動するわけではないのだが、毎日一度、四人で顔を合わせてベンチャーズの話題を口にしさえすれば、それで満足なのだ。

 山陰組を運ぶ観光バスが京都に着いたのは、秋深いこの時期、もう日の暮れかかった夕方であった。
 宿は「織田信長」ゆかりの本能寺が経営する、本能寺会館という旅館であった。
 ちなみに、本能寺会館は、朝食の用意が出来ても、ぐずぐずと布団にしがみついている生徒がいると、若いお坊さんの卵が無理矢理掛け布団を引っ剥がすという、すさまじい旅館であった。
 2日ぶりの再会でありながら、山陰組と四国組に分かれていた生徒達は、合流して、なんとなくウキウキした気分であった。
 高校生にもなって、本能寺会館の廊下を滑って遊んで、教師に注意される者も続出した。

 夕食は、料理の味自体は決して上等とは言えなかったが、ベンチャーズに例えれば、やはり'62年の2人だけの来日と、'65年のフル・メンバーでの来日では盛り上がりが全く違うように、2年生全員が揃った勢いで、茶碗1杯分は余計に入った感じであった。

 夕食後の自由時間、秀は丈と誘い合わせて、近くの商店街探索に繰り出した。ずいぶん縦に長い、大きな商店街であったが、それもそのはず、今から思えば、新京極のアーケード街だったのである。
 宿に戻ってから、クラスの連中と悪さをするための「サントリー角瓶・ミニチュア・ボトル」を酒屋で仕入れたり、お土産屋などを覗いているうちに、レコード店が目についたので、入ってみることにした。
 大きさとしては、中規模のレコード店である。店内をウロウロと探し回ると、枚数は決して多くないが、ちゃんと独立したベンチャーズのコーナーもある。
 丈が代表してコーナーの正面に立ち、横から覗く秀にもよく見えるように、ゆっくりゆっくり、LPを一枚ずつめくっていたが、あるアルバムを手に取ると、顔を近づけてしげしげと眺めた。
 それは、まだ聴いた事のない「LIVE! THE VENTURES」という、1970年の実況録音盤であった。
 「オン・ステージ'71」のジャケットと、ほとんど同じ構図の、エビぞり状態のジェリー・マギーが一番手前に写った、ステージ写真が使われている。

      

 しばらくジャケットを手にしていた丈が、
「これ、買っちゃおうかなあ・・・。」
とつぶやいたので、秀は驚いた。
「え、わざわざ京都まで来て、ベンチャーズのレコードなんて買ってどうすんの?」
 実際、このレコードは、ある程度の規模のレコード店なら、どこにでも置いてあった。
「うーん、どうしても今、欲しくてたまらなくなったんだ。」
 そう言って、丈は本当に'70年のライヴ盤を、修学旅行先で買ってしまったのだが、結果的に言うと、こういう買い方も悪くないものだ。
 後々、何年経ってもこのレコードを聴いたり、ジャケットを眺めたりする度に、高校二年生の時の修学旅行の想い出が、しみじみとよみがえってくる、という寸法である。


             


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